IPOとは?その概要と基本プロセス
IPOとは
IPO(Initial Public Offering:新規株式公開)は、企業が初めて自社の株式を一般の投資家に公開し、証券取引所に上場するプロセスを指します。これにより、企業は公開市場での資金調達が可能になり、企業の透明性と知名度が向上します。IPOは、企業が成長のための資金を確保し、より大きな市場での展開を目指す重要なステップであり、投資家にとっては成長企業に早期に投資する機会を提供します。
IPOは多くの企業にとって大きな転機となります。なぜなら、非公開企業から公開企業に移行することで、資本市場にアクセスできるようになり、成長のための資金調達が容易になるからです。加えて、企業のステータスや信用力が向上し、取引先や顧客、従業員に対する信頼も高まる傾向があります。
しかし、IPOは単なる資金調達手段にとどまらず、企業の経営や管理体制にも大きな影響を与えます。公開企業としての規制や報告義務が増え、株主や投資家の利益を重視した経営が求められるため、IPOは一長一短の選択肢です。
IPOの目的とメリット
IPOを行う企業にはさまざまな目的がありますが、主な理由は次の通りです。
①資金調達
IPOは大規模な資金調達手段として、企業の成長や拡大を支援します。調達した資金は、新たな製品開発や市場開拓、設備投資、債務返済などに使用されます。
②株式の流動性向上
IPOによって株式市場で取引可能になると、株式の流動性が向上します。これにより、創業者や初期投資家は、所有する株式を売却してキャッシュを得ることが可能になります。
③ブランドの向上
上場企業となることで、企業の知名度やブランド力が向上し、社会的な信用も高まります。これにより、顧客や取引先、従業員に対しての信頼が強化されるほか、新しい取引機会が増加します。
④従業員へのインセンティブ
上場前や上場後に従業員にストックオプションを提供することで、企業の成長に対するインセンティブを与えることができます。これは、従業員のモチベーションを高め、企業の成長を促進する重要な手段となります。
⑤企業の透明性の向上
公開企業になることで、厳格な報告義務や監査体制が整備され、企業の透明性が向上します。これは、投資家や取引先に対して信頼性をアピールしやすくなり、将来的な資金調達や事業展開にプラスとなります。
IPOのデメリット
IPOには多くのメリットがありますが、同時に以下のようなデメリットも考慮する必要があります。
①上場までコストと時間がかかる
IPOには多額のコストがかかります。監査法人への監査報酬、主幹事証券のコンサルティング費用、名義書き換え代理人(信託銀行)の手数料などがあります。また、上場までの準備には通常数年かかり、社内リソースが大きく費やされることもデメリットです。
②規制遵守と報告義務
上場企業は、証券取引所の規制遵守、投資家、株主に対して定期的な報告を義務付けられます。四半期決算の開示や株主総会の開催、内部統制の強化など、非公開企業に比べて負担が増します。
③経営の短期志向化
IPO後は、株主や市場からのプレッシャーが増し、短期的な業績改善が求められることがあります。これにより、長期的なビジョンに基づく経営判断がしにくくなる可能性があります。
④株式の希薄化
IPOによって新たに株式が発行されるため、創業者や既存株主の持ち分が希薄化します。これにより、経営に対する影響力が低下する可能性があります。
IPOの基本プロセス
IPOは複雑な手続きが必要であり、通常、以下のようなステップを踏んで進行します。
①上場準備の開始
IPOを目指す企業は、まず内部の体制を整備する必要があります。具体的には、ガバナンス(企業統治)の強化、内部統制の確立、適切な財務報告体制の構築が求められます。これらの準備は、外部からの信頼を確保するために不可欠です。
また、IPOを支援する専門家(主幹事証券会社、監査法人、名義書き換え代理人、印刷会社(プロネクサス)など)を選定することも重要です。主幹事証券のスケジュールにのっとり、企業は上場に向けて上場準備を進めていきます。
②内部管理体制
社内規程集の整備・運用、J-SOXの構築、上場後の適時開示体制の構築等を全社で進めていきます。
③上場申請書類の作成
上場申請書類として主に「Ⅰの部」「Ⅱの部」の作成を進めていきます。
正式名称は、「上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」、「上場申請のための有価証券報告書(Ⅱの部)」といいます。
上場申請書類は、目指す市場によって異なります。
東京証券取引所の場合、本則市場(プライム市場、スタンダード市場)は、「Ⅰの部」、「Ⅱの部」、ベンチャー市場(グロース市場)は、「Ⅰの部」、「新規上場申請者に係る各種説明資料」を上場申請書類として作成します。
④主幹事証券会社の審査
証券取引所への上場申請の前に主幹事証券会社の審査を受けます。
⑤証券取引所への上場申請と審査
主幹事証券会社の審査が終わると証券取引所への上場申請となります。
取引所は、企業が上場基準を満たしているかどうかを審査し、最終的な承認を行います。審査には、財務健全性やガバナンス体制の確認が含まれ、厳格な基準が適用されます。
⑥引受証券会社の選定
IPOプロセスの重要なステップの一つが、引受証券会社を選定することです。引受証券会社は、企業の株式を投資家に販売する役割を担い、IPOの成否に大きく関わります。また、企業の財務状況や事業戦略を評価し、適切な株価を設定する役割も果たします。
⑦有価証券届出書、目論見書の作成
Ⅰの部から有価証券届出書に組替え作成されます。
目論見書は、IPOを行う企業のビジネスモデル、財務状況、リスク要因などを詳細に説明する文書です。投資家はこの目論見書を参考にして、企業への投資を判断します。有価証券届出書、目論見書は、管轄の財務局に提出し、開示審査を受けます。
⑧ロードショー
ロードショーは、IPOに向けて投資家に企業を紹介するためのプレゼンテーションです。企業の経営陣が投資家と直接対話し、ビジネスモデルや成長戦略を説明します。この過程で投資家の関心を引き、IPOへの需要を高めることが目的です。
⑨株式価格の決定
ロードショー後、企業と引受証券会社は、投資家からの需要に基づいて最終的な株価を設定します。この価格決定は、企業の価値を反映しつつ、市場での取引を成功させるための重要なステップです。
⑩株式の上場
最終的な株価が決定し、証券取引所からの承認が下りると、企業は正式に上場します。この瞬間から、一般の投資家が企業の株式を取引できるようになり、企業は公開企業として新たなステージに進むことになります。
まとめ
IPOは企業にとって資金調達の大きな手段であり、ブランド力や成長機会を大きく向上させるものです。しかし、コストや手続きの負担、上場企業としての規制や株主対応といった新たな義務も伴います。そのため、IPOを検討する企業は、メリットとデメリットを慎重に比較し、戦略的に進める必要があります。
内藤克之:プロフィール
IPOコンサルタント。株式会社ドウシシャ(東証プライム市場)勤務、上場準備、経理、財務に従事。上場準備支援の東洋ビジネスコンサルティング株式会社でマネージャーとして数十社の支援を行う。その後、窪田税理士事務所にてIPOコンサルティングに従事、当社設立に参画。支援先には、ベンチャー企業から大企業まであり。今までに延べ100社以上のコンサルティングを行う。IPO支援以外に上場企業の開示実務支援も行っている。